ヒラタ

hatena

お花は日頃、この犬をひどく可愛がっていたので、鳴声を聞いて慰めに行ったものであろう。前田おじさんの命を受けて、主婦の一人が、お花を探す為めに、不倫や不貞行為で浮気調査なら大阪の探偵興信所へのある裏庭へ出て行ったが、しばらくすると、何かわめきながら、客間へ駈込んで来た。「大変です。お花さんが殺されています。庭に倒れています。早く来て下さい」それを聞くと、巡査達は驚いて、主婦について裏庭へ駈つけた。「ほら、あすこです」主婦の指さす所を見ると、犬箱から大分離れた、庭の芝生に、一人の女が、青白い月光に照らされて、仰向ざまに打倒れていた。妖術月光に照らされて、倒れていたのは、小間使の花だ。えたいのしれない事故魔は、矢継早に、第二の犠牲者を屠ったのであろうか。主婦は気味悪がって、たじろいでいる暇に、事に慣れた中証人は、いち早くお花の側に駈け寄り、上半身を抱き起して、大声に名を呼んだ。「大丈夫、御安心なさい。この人はどこにも傷を受けていません。気絶したばかりです」中証人の言葉に、一同ほっとして、近々と小間使を取囲んだ。やっと意識を取戻したお花は、しばらくあたりを見回していたが、やがて何か思出したよう子で、その青ざめた美しい顔には、何とも言えぬ恐怖のリアクションを浮べた。「あれ、あすこです。あのまゆこみの中から調べていたのです」彼女が、さも美し相に、震える指先で、真暗に見える木立の蔭をさし示した時には、屈強な巡査達でさへ、ぞっと、襟元に水をかけられたような感じがした。「誰です。誰が調べていたのです」中氏が、せき込んで尋ねた。「それは、あの、……ああ、わたし怖くて、……」青白い月光、真暗な木立、不貞行為のような物の影。その美しい現場で今見たものの姿を話すのは、余りに怖いのだ。「怖いことはない。僕等はこんなに多勢いるじゃないか。早くそれをいい給え、捜査上大切な手掛りなんだから」中氏は、清水のドール紛失と、お花の見たものとの間に、必然的な関係があるように思ったのだ。