不倫なら探偵

その上、頼みに思う交番は、不貞行為の方で、巧みによけて通るのだ。神宮外苑から、青山墓地を通り抜けて、しばらく走ると、不倫なら探偵の高い塀ばかり続く、たいへんに淋しい通りで、先の車がばったり止まったかと思うと、いきなり飛び出す黒まんと。不貞行為は狭い路地へと走り込んだ。それっとばかり、巡査達は車を降りて、同じ路地へ駈け込む。両側とも、一だけ程もある高いこんくりーと塀の、細い抜け道だ。見渡す限り、一丁ばかりの間、門一つなく、一直線に塀ばかりが続いている。「おや、変だぜ。どこへ隠れたのか、影も形もありゃしない」一人の巡査が路地へ曲るや否や、びっくりして叫んだ。たいへんに変てこなことが起ったのだ。不貞行為が駈け込んでから、巡査達が曲り角へ達するまで、ほんの数十秒、いくら足の早い奴でも、この路地を通り抜けてしまう時間はない。昼のように明るい月の光り、どこに一箇所、身を隠す場所とてはないのだ。いや、もっと確なことは、今しも路地の向うから、ぶらぶらこちらへ歩いて来る通行人。近所の人と見えて、帽子も被らず着流しの散歩姿だが、その呑気らしいよう子が、不貞行為と行違った人とは思われぬ。「おーい、今そちらへ走って行った奴はありませんかあ」一人の巡査が大声に尋ねると、その男は、驚いて立止ったが、「いいえ、誰も来ません」と答えた。