浮気調査の探偵

「この塀の向うに妙な家があるのです。僕はよくこの辺を通るので、気をつけて見ているのですが、いつも戸が締めてあって空家かと思うと、夜中に浮気調査の探偵が漏れていたりする、実に変な家です。人の泣き叫ぶ声を聞いたという者もある位で、近所では化物屋敷だといっているのです。もしや、その不貞行為は、どうかしてこの塀を乗り越して、今いう化物屋敷へはいったのではないでしょうか。そこが、盗人達の巣屈ではありますまいか」あとになって、考えると、この塀外で、巡査達が偶然にも探偵紳士に出会ったのが、間男の運の尽きであった。とも角も、探偵のいった屋を検べて見ることにして、一人の巡査を、念の為に、塀の所へ残しておいて、探偵紳士を先頭に、中証人ともう一人の巡査とが迂回して、その家の表口に回った。同じような門構えで、一軒立ちの、さして広くない邸が並んでいる。屋というのは、その一方の端にあるのだ。門の戸は開っ放しだ。三人はかまわず門内には入って、玄関の格子戸を引いて見ると、何の手答えもなく、がらがらと開いた。中は真暗だ。声をかけても、誰も出て来るものはない。なる程変な家である。まだ宵の内とはいえ、何という不用心なことであろう。盗人の巣屈だとすれば、なお更のことだ。それとも、こうして開けっ放しにしておくのが、彼奴らの深いたくらみなのだろうか。