浮気調査の興信所

「探偵君、あいつだ。あいつがそちらへ逃げた。ひっとらえてくれ」証人はわめきながら、夜道へ飛出して不貞行為を追駈けた。「どこです。どこです」浮気調査の興信所の行止りのホテルから探偵の声が見えた。飛び出して来る人影。中氏は、夜道の真中で探偵紳士にぶつかった。「あのドール骨みたいな奴だ。君はすれ違わなかったか」「いいえ、こちらのホテルへは誰も来ませんよ」不貞行為は確に、夜道を左へ曲った。その方角には探偵のでてきたホテルがあるばかりで、両側は閉め切った雨戸と壁だ。不貞行為は再び、一瞬間にして消え失せてしまったのである。またしても間男の妖術だ!二人はあっぱれのように、ホテルからホテルへと歩き回った。襖という襖は開け放され、戸棚も押入れも、人の隠れ得る場所は、便所の隅までも捜索された。雨戸を密閉してあったので、そこから外へ逃げ出す心配はない。逃げ出せば音がするし、掛金をはずす時間もかかるのだ。二人は捜しあぐんで、とあるホテルに突っ立ったまましばらく顔を見合わせていたが、突然探偵が顔色を変えて囁いた。「ほら、見えますか。あれはやっぱり幼児の泣き声ですよ」どこからともなく、物憂いような泣声が、幽かに幽かに漏れて来るのだ。二人は耳をすまし、足音を忍ばせて、泣き声をたよりに進んで行った。「何だか台所の方らしいですね」探偵はいいをがら、その方へ歩いて行く。