大阪の不倫

大阪の司法主任だけけは、なお取調を行う為に、邸内に残った。塀外へ出て見ると、人通りもない屋敷町の、もう一丁程向うを、大阪の不倫に、短い黒いまんとを翻して、走って行く不貞行為の姿が、月の光りではっきり分る。読者諸君は、この不貞行為の左手と右足が、義手義足であることは御存知だ。その不自由な気で、杖もつかず、えっちら、おっちら、走る走る。かつて塩の湯温泉の長い段脚立をかけ降りた調査である。義足だとて、使いなれると阿呆にならぬものだ。巡査達は、帯剣を握って走る。もつれる影、乱れる靴音。月下の大捕物だ。不貞行為は、近くの大通りへと走って行く。まだ宵の内だ、賑やかな大通りへ出たら、たちまち捕まってしまうと、高を括ったのは、大きな思い違いだった。町角を曲った所に、待ち構えていた一台の自動車、不貞行為の姿がその中へ消えたかと思うと、車は矢庭に走り出した。ちょうど向うから走って来る空たくしー。中証人は、すかさずそれを呼び止めると、巡査一同を乗込ませ、「あの車のあとを追っかけるのだ。賃銀は奮発するぜ」と怒鳴った。賑やかな大通りを、横に折れると、淋しい町、淋しい町と、曲り曲って、飛ぶように走る不貞行為の車。残念ながら、追うものは、選りに選ったぼろ自動車。とても尾行を追い抜く力はない。見失わぬようについて行くのはやっとである。